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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)150号 判決

原告 越後正三

右訴訟代理人弁護士 小原和夫

濱田俊明

被告 有限会社 平八茶屋

右代表者代表取締役 園部武

右訴訟代理人弁理士 新実健郎

村田紀子

橋本昭二

主文

1  特許庁が、同庁昭和五六年審判第二〇五七八号事件について、平成元年五月一八日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

主文同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、「祇園平八」の漢字を縦書きし、その右側に「ぎおんへいはち」の平仮名の振り仮名を付してなる構成からなり、第三二類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品とする商標登録第七〇二〇五六号の商標(昭和三九年九月一一日出願、昭和四一年三月二四日登録、昭和五一年六月一七日及び昭和六一年三月一三日各商標権存続期間の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は、昭和五六年一〇月一三日、原告を被請求人として、本件商標について、商標法第五〇条第一項により、指定商品中「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、肉製品、加工水産物、加工穀物、加工野菜及び加工果実」について商標登録を取り消すことについて審判を請求した(本件商標登録取消審判の請求の登録日は同年一二月九日)。

特許庁は、右請求を、同庁昭和五六年審判第二〇五七八号事件として審理した上、平成元年五月一八日、「登録第七〇二〇五六号商標の指定商品中「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、肉製品、加工水産物、加工穀物、加工野菜及び加工果実」についてはその登録は、取り消す。」旨の審決をし、その謄本は、同年六月二八日に原告に送達された。

二  本件審決の理由の要点

1  本件商標の登録番号、構成、指定商品、出願日、登録日は、前記一のとおりである。

2  審判請求人(被告)は、前記一記載の本件審決同旨及び審判費用は審判被請求人(原告)の負担とする、との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠として、審判事件甲第一号証の一ないし三を提出した。

(一) 本件商標及びこれと連合する登録商標は、指定商品中、少なくとも食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、肉製品、加工水産物、加工穀物、加工野菜及び加工果実について継続して三年以上、日本国内において使用されていない。そして審判被請求人(原告)が本件商標を使用しないことについて正当な理由は存しない。したがって、本件商標の登録は商標法第五〇条第一項の規定に従って取り消されるべきである。

(二) 審判請求人(被告)は、「平八」の文字からなる商標について第三二類に属する商品を指定商品とする商標登録出願をしており、さらに「山ばな平八茶屋本店」なる文字からなる商標について、第三二類に属する商品を指定商品として商標登録出願(商願昭五二―二五二六〇)をしたところ、本件商標と連合する登録第七七五二九九号商標と類似であって、指定商品も抵触するとして拒絶されているものであり、審判請求人(被告)が本件審判を請求することについて利害関係を有することは明らかである。

3  審判被請求人(原告)は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、審判事件乙第一号証ないし審判事件乙第七号証(枝番を含む。)を提出した。

(一) 審判請求人(被告)は、本件商標及びこれと連合する商標が継続して三年以上日本国内において使用されていないと決めつけているが、全く事実に反するものである。

(二) 京都市内に永住すると思われる審判請求人(被告)が、京都名所の一つであり、市内随一の繁華街でもある祇園町で、しかも四条通りに面して永年盛大に営業する審判被請求人(原告)の店舗「祇園平八」を知らないはずがない。

そして、少なくとも右本店入口両側のショーウィンドウを一見すれば、店内で如何なる調理品が顧客に提供され、また如何なる商品が土産ないしは持ち帰り品として販売されているかが一目で判然とするにもかかわらず、審判請求人(被告)は敢えてこれらの事実を黙殺して無用な審判を請求し、いたずらに実証の負担を審判被請求人(原告)に転嫁せしめるが如きは、商標法第五〇条第一項の規定を濫用する不謹慎な行為であるといっても決して言い過ぎではない。

4  そこで判断するに、審判事件乙第一号証(本訴甲第六号証の一)は、作成年月日が不明であるばかりでなく、たとえ審判被請求人(原告)が宣伝用として頒布する「祇園平八」の営業案内書であるとしても、それに示された「うどんちり、しゃぶしゃぶ、肉料理、てっちり」等の表示は、店内において客に提供される料理名を表したと認められるにすぎず、本件審判請求に係る商品を取り扱っていることを認めるに足りる表示は見当たらない。

審判事件乙第二号証の一、二(本訴甲第六号証の二、三)、同第三号証(本訴甲第六号証の四)及び同第四号証の一、二(本訴甲第六号証の五、六)は、いずれも本件審判請求の登録後のものであり、同第五号証(本訴甲第六号証の七)は、たとえ、昭和五六年一〇月八日付の持ち帰り伝票の写しであると推認されるものであるとしても、そこに示された「カバヤキ」は、審判被請求人(原告)自身「寿司や弁当類と異なり、店内で飲食された客が帰宅時に土産として注文されるのが殆どで、お持ち帰りコーナーで直接販売は極めて少ない。」と述べているところから、商標法上の商品とは認められないものであり、他に本件審判請求に係る商品について、本件商標を使用していた事実を認めるに足りる証拠はない。

してみると、本件審判請求に対し、審判被請求人(原告)は、本件審判請求の登録前三年以内に日本国内において本件審判請求に係る商品について、本件商標を使用していたことを証明したものと認めることができない。

5  したがって、本件商標の登録は、結論掲記の指定商品について、商標法第五〇条第二項により取り消すべきものとする。

三  本件審決を取り消すべき事由

原告は、前記本件商標登録取消の審判の請求の登録日である昭和五六年一二月九日の前三年内に、京都市東山区祇園町南側五八二番地所在の、原告経営の割烹寿司「祇園平八」本店において、同店の「お持ち帰りコーナー」で販売する、「うどんちり」、即ち、鶏肉、はも、たらの切り身、えのき茸、蕨、春菊、人参、白菜、太いうどん等のうどんちりの材料を折り詰箱に詰め合わせたもの又はうどんちり用のうどんのみを折り箱に詰め合わせたもの、及び、「うなぎの蒲焼」、の各商品の包装に、本件商標又はこれと連合関係にある登録第七七五二九九号商標「平八」(以下これらの商標を「本件商標等」ともいう。)を付して使用していたものであるのに、本件審決は、右各商標の使用は認められないと事実認定を誤った結果、被告の本件審判請求を認容した違法があるから取り消されなければならない。

なお、原告が販売した「うなぎの蒲焼」は、本件商標の指定商品中の「加工水産物」に、「うどんちり」は、本件商標の指定商品中の「加工穀物」にそれぞれ該当する。

第三請求の原因の認否及び反論

一  請求の原因一、二及び同三中本件商標登録取消の審判の請求の登録日が昭和五六年一二月九日であることは認めるが、同三中その余の主張は争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由はない。

二1  原告が、本件審判請求の登録前三年以内に、持ち帰り商品としての、原告主張「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」について、本件商標等を使用した事実の証明はない。原告主張の「うどんちり」のような形態のものは、持ち帰り商品として不適切、不自然である。

2  仮に、持ち帰り商品としての「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」について、その包装容器や広告に本件商標等と同一又は類似の標章が使用されたことが認められるとしても、本件商標等を商品について使用したものということはできない。

原告主張の「うどんちり」は、うどんめんを材料の一つとして含んだ鍋料理の材料の一人前分を折詰にしたもの、「うなぎの蒲焼」は、調理されたうなぎの蒲焼の一人前の料理の折詰であり、それぞれ原告の経営する料理店において客に提供される「うどんちり」という鍋料理及び「うなぎの蒲焼」料理の延長に過ぎないもので、いずれも市場において交換することを目的として生産されるものではない。また、原告は、審判手続における昭和五七年三月一日付答弁書において「但し、持帰り用の「うどんちり」「しゃぶしゃぶ」又は「蒲焼」等は、寿司や弁当類と異なり店内で飲食された客が帰宅時に土産として注文されるのが殆どで、「お持ち帰りコーナー」で直接販売は極めて少ない。」と自白していたところであり(甲第三号証六頁五行から八行まで。このことは本件審決においても指摘されている。)、これら「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」等は店頭で継続的かつ反復的に販売されるものではない。

したがって、原告主張の「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」は、いずれも商標法にいう商品にあたらないので、それらの包装容器や広告に本件商標等と同一又は類似の標章が使用されたとしても、それは被告の営業表示であり、本件商標等を商品について使用したものということはできない。

三  原告主張の「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」は、本件商標登録取消審判における取消請求に係る指定商品に該当しないから、仮に、「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」について、本件商標等を使用した事実が認められるとしても、取消請求に係る指定商品についての使用ではない。

本件商標登録取消の審判は、本件商標の指定商品である商標法施行規則の別表の第三二類「加工食料品、その他本類に属する商品」の内、「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、肉製品、加工水産物、加工穀物、加工野菜及び加工果実」について、本件商標登録の取消を求めるものであり、第三二類の加工食料品に属するものの内、「その他の加工食料品」の概念に属するものについては、本件商標登録取消審判における取消請求の対象外である。

原告が本件商標等を使用したと主張する「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」は、いずれも、第三二類に属する商品の内、「その他の加工食料品」の概念に属する。

1  原告主張の「うなぎの蒲焼」は、単なる「うなぎの蒲焼」そのものではなく、調理されたうなぎの蒲焼の一人前の料理の折詰に他ならない。一人前の料理の折詰としての「うなぎの蒲焼」は、商標法施行規則の別表に定める商品の区分においては、べんとう類に属するものである。

「べんとう」の用語は多くの場合、米飯を含んだ料理を携行用容器に詰めたものを指称するが、米飯を含まない料理のみを詰めた料理弁当(各種洋食、中華料理及び和食のものがある。)も一般に市販されている。したがって、原告の主張する「うなぎの蒲焼」の一人前の料理の折詰は、弁当の類に属するものであり、商標法施行規則の別表記載の商品区分においては第三二類に属する商品の内、「その他の加工食品」の概念に属するものである。

なお、特許庁においても、料理弁当又は料理の折詰が弁当の概念に含まれるものとして取り扱ってきたことは、乙第一号証(昭和五二年三月二五日社団法人発明協会発行・特許庁商標課編「商品類別集」一七〇頁(昭和二八年四月改訂「類似商品例集(改訂版)」の一部)、同二三七頁(昭和三一年一月改訂「類似商品例集(改訂版)」の一部)及び同三〇五頁(昭和三二年一一月再訂「類似商品例集(再訂版)」の一部))における「弁当」の項に、「(料理弁当を含む)」又は「(料理の折詰を含む)」との記載があることに照らしてみても明らかである。

右乙第一号証は、旧分類におけるものであるが、旧分類の第四五類の「弁当」の概念に属するものが、すべて現行法の商品区分の第三二類の「べんとう」の概念に含まれるものであることは、乙第二号証(昭和三六年一〇月一日社団法人発明協会発行・特許庁商標課編「新商品区分に基づく類似商品審査基準」中の新旧類似商品対照表四一頁)における「すし、べんとう、サンドイッチ」の欄の記載からも明らかである。

2  原告主張の「うどんちり」は、うどんめんを材料の一つとして含んだ鍋料理の材料の一人前分を、折り箱に詰め合わせたものである。

仮に、このような商品が持ち帰り用に提供されたとしても、それは、うどんめんを主体とする食品が販売されているのではなく、鍋料理のための材料が折り箱に詰め合わされて販売されているのであって、商標法施行規則別表記載の商品の区分の下では、第三二類の内「その他の加工食品」の概念に属するものである。

なお、「加工穀物」の概念には、「うどんめん」そのもの又は「即席うどんめん」の如くうどんめんを主体とする食品の場合のみが含まれるのであって、種々雑多な鍋料理材料セットは、「その他の加工食料品」の概念に含まれるものであることは、乙第三号証(昭和五五年四月七日社団法人発明協会発行・特許庁商標課編「商品区分解説」九二頁から九五頁まで)の記載から明らかである。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一、二及び同三中本件商標登録取消の審判の請求の登録日が昭和五六年一二月九日であることは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

(一)  原告は、各種鍋物、和風弁当、寿司、雑炊、湯豆腐、うなぎ、肉料理等を主な提供品とする料理店「祇園平八」を経営し、京都市東山区祇園町南側五八二番地(四条通り大和大路東)所在の「祇園平八」本店ほか数店で営業しているものである。

(二)  右「祇園平八」本店においては、一階から四階までの客席で来店した客に各種料理を提供しているが、一階の入口脇には「お持ち帰りコーナー」を設けて、店内で飲食しないで各種料理を持ち帰るだけの客に各種料理を販売しており、表通りに面して、入口の両側にある料理の見本を展示するショーウインドウの内、右側のものの上部に「お持ち帰りコーナー」と目立つように表示されている。

お持ち帰りコーナーの販売員は、一階のレジスター係が兼ねており、来店した客に、持ち帰りかどうか確認し、持ち帰りの客にはその場で注文の品を聞いて伝票に記入して調理場に連絡する。調理場で調整できた注文の品は、折り箱又はヘギで包装した上、包装用紙で上包みし、包装用紙の端をシールでとめ、紐を掛けた状態で、お持ち帰りコーナーの販売員であるレジスター係に届けられ、代金の支払と引換に、客に渡されるものである。

(三)  前記お持ち帰りコーナーで販売されるものを包む包装用紙には、濃い緑色の地に白抜きで文字が表されている。その構成は、中央に「祇園平八」と毛筆による肉太の書体で縦書きに、「祇園」の文字が後記両側の文字より一段と大きく、「平八」の文字がそれより更に一段と大きく表され、その右肩に「珍味 うどんちり しゃぶしゃぶ 總本家」「活魚料理・平八寿司」の文字が、左脇に料理店「祇園平八」の「四条店」「祇園北店」等の各店舗名とその所在地や電話番号がいずれも縦書きにされているものである。なお、右「祇園平八」の文字には振り仮名は付されていない。また、右「活魚料理・平八寿司」の文字が表されていない包装用紙もある。

また、包装用紙の端をとめるシールには、青地に金色で「祇園平八」の文字が毛筆による肉太の書体で横書きに、「祇園」の文字はやや小さく、「平八」の文字はそれより大き目に表され、その下に小さな文字で、店舗名と所在地、電話番号が表されている。

(四)  前記(二)認定の、上部に「お持ち帰りコーナー」と表示されている、表通りに面したショーウインドウには各種寿司、数種類のお造り、鍋物の見本が展示されているが、展示していないものも客の注文に応じて、お持ち帰りコーナーで販売されている。昭和五四年秋頃から昭和五六年一〇月頃までの状況では、一か月に約二〇〇人以上の持ち帰り客に各種の物を販売しているが、最も多いのは各種の寿司であり、うなぎの蒲焼(小型容器に入れたタレと薬味のしょうがの薄切りを添えたもの)を折り箱に詰めたものも売れ、また、なべ料理である「うどんちり」の材料である鶏肉、魚の切り身、えのき茸、蕨、春菊、人参、白菜、太いうどん等を折り箱に詰め合わせ、びんに入れただし汁を付けたもの又はうどんちり用の太いうどんのみを折り箱又はヘギに詰めたものもよく売れていた。それらの料理は一人前ずつ折り箱に詰めるものに限らず、客の注文により大きな折り箱に詰める場合もあった。

2  前記甲第三号証によれば、原告代理人が本件審判手続において特許庁審判官に昭和五七年三月一日付で提出した答弁書中には、審判事件乙第五号証(本訴甲第六号証の七)についての説明中に「但し、持帰り用の「うどんちり」「しゃぶしゃぶ」又は「蒲焼」等は、寿司や弁当類と異り店内で飲食された客が帰宅時に土産として注文されるのが殆どで、「お持ち帰りコーナー」で直接販売は極めて少ない。」との記載があるが、前記1認定の事実に反する部分は、《証拠省略》に照らして信用できない。他に、前記1の認定を左右する証拠はない。

3  右1に認定した事実によれば、原告が、料理店祇園平八本店のお持ち帰りコーナーで販売した、「うなぎの蒲焼」、「うどんちり」の材料である鶏肉、魚の切り身、えのき茸、蕨、春菊、人参、白菜、太いうどん等を折り箱に詰め合わせ、びんに入れただし汁を付けたもの及びうどんちり用の太いうどんのみを折り箱又はヘギに詰めたものは、商標法の所定の商品に当たり、かつ、「うなぎの蒲焼」は本件商標の指定商品中の「加工水産物」に、また「うどんちり」の材料である鶏肉、はも、たらの切り身、えのき茸、蕨、春菊、人参、白菜、太いうどん等を折り箱に詰め合わせ、びんに入れただし汁を付けたものは本件商標の指定商品中の「その他の加工食料品」に、うどんちり用の太いうどんのみを折り箱又はヘギに詰めたものは本件商標の指定商品中の「加工穀物」に当たるものと認められる。

また、《証拠省略》に、右1(三)に認定した事実を総合すれば、前記お持ち帰りコーナーで販売される商品を包む包装用紙の中央に「祇園平八」と毛筆による肉太の書体で縦書きに表された文字は、その右肩、左脇の文字とは大きさに格段の差があり、書体も異なるところから、一般需要者が、「祇園平八」の部分のみで独立の標章を構成するものと理解することも多いこと、右「祇園平八」の部分の構成を、本件商標の構成と比較すると、本件商標は「祇園平八」の文字が同じ大きさであるのに、包装用紙のものは「祇園」の文字が「平八」の文字より小さいこと、本件商標では「祇園平八」の文字には振り仮名が付されているのに、包装用紙のものは振り仮名が付されていないこと、本件商標は毛筆による通常の書体であるのに、包装用紙のものは毛筆による肉太の書体であること等の相違点があるが、「祇園」と「平八」の文字の大小は、「祇園平八」と一連の標章と解することを妨げる程のものではなく、本件商標の振り仮名も「祇園平八」の文字の通常の読み方を振り仮名として普通に用いられる方法で付したものであり、書体の相違もそれほど顕著ではないこと、並びに、それらの点を総合して判断すると、前記のように中央に「祇園平八」と表示された包装用紙で包んだ商品をお持ち帰りコーナーで販売する行為は、本件商標の使用に当たること、が認められる。

よって、原告は、本件商標登録取消の審判の請求の登録日である昭和五六年一二月九日の前三年内に、京都市東山区祇園町南側五八二番地所在の、原告経営の料理店「祇園平八」本店において、同店の「お持ち帰りコーナー」で販売する、うどんちり用の太いうどんを折り箱又はヘギに詰めたもの、及び、うなぎの蒲焼を折り箱に詰めたもの、の各商品の包装に、本件商標を付して使用したことにより、本件取消請求に係る本件商標の指定商品中の「加工穀物」及び「加工水産物」について、本件商標を使用していたものである。

4(一)  被告は、原告主張の「うどんちり」のような形態のものは、持ち帰り商品として不適切、不自然であると主張するが、持ち帰り商品として販売されたことは、前記1において各証拠に基づいて認定したとおりであり、被告の主張は失当である。

(二)  被告は、「原告主張の「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」は、それぞれ原告の経営する料理店において客に提供される「うどんちり」という鍋料理及び「うなぎの蒲焼」料理の延長に過ぎないもので、いずれも市場において交換することを目的として生産されるものではない。また、原告は、審判手続における昭和五七年三月一日付答弁書(甲第三号証)において「但し、持帰り用の「うどんちり」「しゃぶしゃぶ」又は「蒲焼」等は、寿司や弁当類と異なり店内で飲食された客が帰宅時に土産として注文されるのが殆どで、「お持ち帰りコーナー」で直接販売は極めて少ない。」と自白していたところであり、これら「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」等は店頭で継続的かつ反復的に販売されるものではない。したがって、原告主張の「うどんちり」及び「うなぎの蒲焼」は、いずれも商標法にいう商品にあたらないので、それらの包装容器や広告に本件商標等と同一又は類似の標章が使用されたとしても、それは被告の営業表示であり、本件商標等を商品について使用したものということはできない。」旨主張する。

しかし、審判手続において書面に記載した事項が、そのことをもって民事訴訟法上の自白にあたるものでないことは明らかである。また、甲第三号証の評価については、前記2に判断したとおりである。更に、前記1に認定判断した料理店祇園平八本店のお持ち帰りコーナーでの「うなぎの蒲焼」、「うどんちり」の各種材料を折り箱に詰め合わせ及びうどんちり用の太いうどんのみを折り箱又はヘギに詰めたものの販売の態様によれば、それらは、商標法所定の商品として販売されていたものということができ、被告の右主張は認められない。

(三)  被告は、原告主張の「うなぎの蒲焼」は、商標法施行規則の別表に定める商品の区分においては、べんとう類にあたり、第三二類に属する商品の内、「その他の加工食品」の概念に属し、本件商標の指定商品中、本件商標登録取消審判における取消請求の対象外である旨主張する。

しかし、商標法施行規則の別表の第三二類の加工食料品の項の中の一項ないし四項は、肉製品、加工水産物、加工穀物、加工野菜及び加工果物と、その原材料に着目して分類されていることが明らかである。また、加工食料品の項の中の五項の「その他の加工食料品」の項に掲記された商品をみると、一項ないし四項に上げられた類型の加工品の原材料である、肉、水産物、穀物、野菜及び果物以外のものを原材料とする加工食料品(例えば、とうふ、凍りとうふ、あぶらあげ、こんにゃく、なっとう、乾燥卵、こうじ、酵母、イーストパウダー、ベーキングパウダー)及び前記一項ないし四項に上げられた類型の加工品並びにそれらの原材料である、肉、水産物、穀物、野菜及び果物のうち何種類かのものを組み合わせて原材料とすることの多い加工食料品(例えば、すし、サンドイッチ、カレーライスのもと、スープのもと、ふりかけ、お茶づけのり)があり、「べんとう」も、後者の分類に属するが、前記一項ないし四項に上げられた類型の加工品の原材料である、肉、水産物、穀物、野菜及び果物のうち一つのみを原材料とする加工食料品は掲記されていないことが明らかである。(なお、「こうじ」は、米麹、麦麹等を考えれば原材料は穀物のみとみることができないわけではないが、むしろ添加され増殖した麹菌そのもの及びその生成物に着目して、前者の分類に属するものというべきである。)

右のような点を考慮すると、一般に料理弁当あるいは料理の折詰といわれる余地のあるものでも、原材料が水産物の鰻のみである本件の「うなぎの蒲焼」(タレ、薬味のしょうがの薄切りは添え物に過ぎないから、これらの原材料を考慮するのは妥当でない。)は、べんとうの類として「その他の加工食料品」に属するものではなく、商標法施行規則の別表記載の商品区分においては第三二類に属する商品の内、「加工水産物」の概念に属するものと認めるべきである。

なお、成立について当事者間に争いのない乙第一号証によれば、旧商標法施行規則(大正十年農商務省令第三六号)の規定による商品分類の下における類似商品例集では、料理弁当又は料理の折詰が弁当の概念に含まれるものとされていたことが認められるが、そのことは、成立について当事者間に争いのない乙第二号証の記載を考慮しても、前記の判断を左右するものではない。

被告の前記主張は採用できない。

(四)  被告は、原告主張の「うどんちり」は、商標法施行規則の別表に定める商品の区分においては、第三二類に属する商品の内、「その他の加工食品」の概念に属し、本件商標の指定商品中、本件商標登録取消審判における取消請求の対象外である旨主張する。

そして、「うどんちり」の材料である鶏肉、魚の切り身、えのき茸、蕨、春菊、人参、白菜、太いうどん等を折り箱に詰め合わせ、びんに入れただし汁を付けたものは、商標法施行規則の別表の第三二類の加工食料品の項の中の一項、二項、四項に上げられた類型の加工品の原材料である、肉、水産物、野菜及び三項の加工穀物を組み合わせたものであるから、被告主張のとおり、「その他の加工食料品」に属するものであることは、前記3に認定判断したとおりである。

しかし、うどんちり用の太いうどんのみを折り箱又はヘギに詰めたものは、商標法施行規則の別表の第三二類の加工食料品の項の中の三項の「加工穀物」の項に掲記されたうどんめんのみを商品として販売するものであるから、「加工穀物」に属するものであり、「その他の加工食品」の概念に属するものではない。この点についての被告の主張は失当である。

三  よって、本件審決に所論の違法があるとしてその取消を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 木下順太郎)

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